マッチョから君へ

お前が舵を取れ!

(ネタバレ)『世紀の空売り』ヘッジファンドも客商売なんやなぁ

投資の勉強にでもなればと思って手に取った本。

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」の原作(ちなみに映画は未見)と言うことで小説風の内容を予想していたらわりと固めの金融ノンフィクションで、読み終えるのに少し気合いがいった。

本書では2007年の世界金融危機が発生する過程として債権化された住宅ローン債権(いわゆるサブプライム債等)を原料にして分割・統合やらを繰り返し様々な金融商品が作られ、投資銀行ヘッジファンド、その他機関投資家間で取引が広がって行く様子が描かれるが、読み進めるうちにだんだんとその商品取引がどういう意味をもつのかこんがらがってくる。(例:モーゲージ債に含まれるローンが焦げ付くと価値が上がるCDSのコピーをショートすると、どういうリスクがある?)

とは言えその難解さ自体が、関係者達がいかにリスクを見誤り危険な取引を重ねて行ったかに説得力を与えている。

 

特に驚いたのはS&Pムーディーズ等の格付け機関が商品の持つ意味を全く理解せずにトリプルAの格付けを乱発していたという点だ。さらに保険会社や年金機構がその格付けを鵜呑みにし、最後には紙屑同然となる債権を何兆円も購入していたと言う。本書によれば格付け機関とは投資銀行に就職できなかった落ちこぼれが就職する場所であり、投資銀行のエリートたちに簡単に丸め込まれてしまうらしい。とはいえ結局は投資銀行も自分の付いた嘘に騙されるように自らも破滅へ向かう博打にのめり込んでしまうのだが…

 

もう一点、興味をそそられたのが“正しい判断”により金融危機の中で莫大な金を稼いだ数少ない投資集団の一つであるコーンウォール・キャピタルの投資方法だ。その手法とは大きな価格変動が起こりそうな商品を見つけ、現物ではなくオプションにより損失を限定した上で「その時」を待つと言う手法だ。予想が当たる確率は低くとも損失は限定的で、もし成功すればそれなりのリターンを得ることが出来る。その根底にあるのは「上がるか下がるかはともかく大きな価格変動が起こるタイミングがある」と言う思想である。直近ではたとえばブレグジット国民投票はその好例ではないだろうか。日本でも数は多くないが個別株のオプション取引が可能なようなので少し勉強してみたい。

 

最後に、誰よりも早く債券市場の危険生を見抜き市場の崩壊に賭けたファンドマネージャー、マイケル・バーリは予言を的中させ、ファンドの最大の目的である預かり資産の増加を大きく成功させたにもかかわらず、顧客からの理解を得られずにファンドを閉鎖してしまう。結局のところヘッジファンドも客商売で大切なのは営業力と言うことか。